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3月
ヒロはカレンダーをめくった。ほのぼのと春の気配。
仲良さげなお内裏様とお雛様にヒロは嬉し気に目を細めた。
「三月は久々にお笑いの仕事やった」
そう。長年の念願が叶い、二人はお笑いの舞台に立った。
春の特番『お笑いキング決定戦』。
人気芸人が軒並み出場する人気番組である。
この番組は番組側からオファーがあるわけではなく、自ら志願してエントリーする。新人もベテランも一から並んでの勝ち抜き形式である。
「ハナ、そろそろやってみいへん?」
仕事を終えてうどんを食べながら、ヒロはハナに切り出した。その日ずっと何か言いたそうだったヒロに気付いていたハナは、つるんとうどんの残りを啜って頷く。
「……ん。ハトダンスなら場数も踏んだし大丈夫かもしれん」
「違う。着ぐるみなしでちゃんとコントをやるんや」
「えっ?」
ハナは青ざめた。人目が怖いハナにとって着ぐるみは防護服に等しい。ハトになってしまえば紅白の大舞台すらぐるっぽーだが、ガワなしとなると想像するだに震えが走る。ヒロはそんなハナの手をぎゅっと握った。
「ハナ。いつまでもハトではおられん。俺たちは人類や」
「ぐれーとひゅーまん……」
別に偉大ではないがヒロの真顔につられてハナは呟いた。
「な。人として新たなネタをぶちまかそうや」
「でも……ヒロ、ハトなしでネタできるん?」
「俺も挑戦や。優勝せんでもまず舞台に立って、そんで一回でええからお客さんに笑ってもらおうや」
ヒロがお笑いの舞台に出たいことは、ずっとわかっていた。
書き溜めてきたネタ帳は何十冊にもなる。(中身の出来具合はどうであれ)
ずいぶん待たせた。だからハナは覚悟を決めた。
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