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「どんぐらいならイケるんやろ。僕、ひとまず上着一枚着てみるわ」
ハナは茶の間の半纏を羽織った。ちなみにハト柄である。ふんわり暖かく、少し安心する。しかし一枚ぐらいでは何も変わらない。
「俺の半纏も貸すわ」
ヒロの半纏も重ねて二枚目。どうでもいい情報だが勿論こちらもハト柄である。チャレンジ。「こっ、ここだけの」。まだ全然つまづく。
みたびトライで三枚目「う、うわさやけど」。続く四枚目。「ねっ、ねえさんたち」……
次第にハナは姫だるまのように膨れてきた。重ねた服が段々の層になっていく。重ねの衣。その姿にヒロはひらめいた。
「そうや俺たちがお雛様になったらええ! そしたら何枚重ね着しても自然や!ナチュラル!」
「おお冴えてるでヒロ! さすがグレートヒューマンや!」
お雛様がコントをする時点で決してナチュラルではない。
だがもう時間がない。それ以外にこの難題を乗り越える術はなかった。
ヒロはネタを修正し、二人はお内裏さまとお雛さまが語る形式のコントで舞台に立った。
狙いは当たった。
十二単の総重量はゆうに二十キロを超える。まさに鉄壁の守りで、ハナは一度もつっかえずにツッコミに返しを決めた。
二回戦で敗退したものの、ハナヒロは数年ぶりに舞台でコントらしきものが出来たのだ。佐崎は舞台袖で男泣きに泣いた。
反響も大きかった。
『お雛様めっちゃ似合う』『見てるだけで縁起良し』などと評判は上々だった。しかも。
「こうして並んでるとハナヒロ、夫婦みたいやねって……け、けけけけ結婚式みたいやもんねこれ。僕、また頑張る」
ハナは大事に写真を携帯に入れている。次の舞台に向けて気持ちも前向きになった。
「俺も頑張る。衣装のインパクトにネタが負けとった……」
豪華な十二単姿で舞台は平安絵巻さながらだった。
『美しすぎて台詞が頭に入ってこない』『見惚れて終った』などのコメントが多々上がり、ヒロはヒロで大いなる反省に至ったのであった。
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