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ベランダには明るい陽射しと爽やかな風が吹いている。
二人は手すりにもたれて青空にはためく鯉のぼりを眺めた。のんびりモードの二人に引き換え、ハトは引き続き必死である。
まるで昨日までのステージの幻を目で追うようにハナが言った。
「ヒロ、佐崎さんほど大それたことは思わんけど、子供たちハトダンス楽しんでくれたやろうか。みんなの思い出の中に僕たちがおって、そんでたまに思い出してくれたら嬉しいなあ」
横から手を伸ばし、ヒロはハナの頭を撫でた。
「大丈夫や。楽しいことは思い出になっても楽しいままや」
「あんな、僕、ステージ、楽しかったみたいや。終わって今、すんごく寂しい」
「え? ほんま……?」
「うん」
驚くヒロにハナが照れたように微笑んだ。
「楽しいって気持ち、すごい力になるんやな。あんなに怖かったのにな、ステージからみんなの歓声、また聞きたいんや。僕またみんなに笑ってもらいたい。今はまだ着ぐるみごしやけど、いつか漫談で笑ってもらえたらきっと最高やね」
ヒロは一瞬大きく目を見開き、思わず両手でハナを抱きしめた。
ここまでなんて長かっただろう。どんなにその言葉を聞きたかっただろう。
ハナが舞台を楽しんだ日がようやく来た。それはハナが本当の意味で舞台に帰ってきた証だった。ヒロは目頭が熱くなるのを感じた。
よかったでポッポ……
ハトも筋力の限りを尽くして横に体を保ちながら、もらい泣きしていた。
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