7月

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「ご安心下さい、先生! ハナならここにおります!すぐに衣装を!」 ここ数年ですっかり宮本のノリを会得した佐崎がハナを引っ張り出す。この程度のワガママには慣れっこのスタッフは多種多様の衣装を用意しており、ハナはたちまち可憐な織姫になった。艶やかな姿にヒロはもう虜である。 「どこの天女が舞い降りたか思うたわ。女神や、この世の奇跡や、瞬きする時間が惜しいわ。その衣装、俺が買い取ってうちに持って帰る」 「いらん。部屋着にもならへん」 そこは現実的なハナである。それにしてもなぜマトモなお笑いでなく、コスプレ路線に引きずられていくのだろう……ハナは織姫の衣装で物憂げに溜息をつく。彦星と織姫が整ったところで宮本はカメラを構えた。 「いいね! まさに彦星と織姫、恋愛に夢中になって仕事をほっぽり出したアホンダラカップルの雰囲気、最高に醸し出してる!」 パシャパシャパシャ!シャッターを連打。しかしそのうち宮本の手がぴたりと止まった。 「んんんー……違うッ! 七夕なのに星空のきらめきが足らん! 天の川の輝きはどうした!」 「お任せください、先生! この佐崎が今、ミルキーなウェイを創造してご覧に入れます!」 佐崎は宮本の言いなりとなり、小道具部屋から銀河を模した青い布を持って来て二人の間に広げた。そのぶちまけでヒロとハナの間に深い境界線が引かれたようになる。佐崎は天の川創造にドヤ顔だったが、たちまち双方から猛反発をくらった。 「こんな境界線いらん! 例え七夕いうてもハナと離れるなんて縁起悪!」 「ふざけるな、こんな布っ切れで誤魔化されるか! 俺の芸術は学芸会じゃない!」 あまりの拒絶反応に萎縮する佐崎に、宮本は鼻息荒く宣言した。 「やはりヒロの美しさに匹敵するのは本物の星空……こんなガラクタでは俺のイメージを伝えきれん! よおし、ロケだ! 夏は山だ! スケジュールを調整しろ。花火とバーベキューの用意も忘れるな!」  ……バーベキュー?  その場の全員が確信した。この駄々こねは計画のうちだと。つまり宮本は公然とハナヒロと夏休みな一日を過ごしたいだけじゃんと。  そんなわけで、まさかの8月に続くのである。
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