9月

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9月

 まだまだ残暑の9月、一羽のハトが寂れた山の神社に降り立った。  その名も『ひなび神社』。    365段の石段を登りきると現れる、神氣に満ちた神社である。  ここには音楽や財福、知恵を司る弁天さまが祭られている。霊験あらたかな神社なのにも拘わらず、あまりにも山の上にあるためか、お参りするのに365段という長い階段がネックになるためか、ほとんど参拝客はいない。  しかし神社と言えばハト。この山の神域にある神社は、空を行き来するハトにとって羽を休めるのにうってつけのパワースポットだ。しかも樹齢300年の神木には神が宿っており、その枝で休憩させてもらえると無事目的地にたどり着けるというまことしやかな噂もある。  そんな浅からぬ縁もあり、予てよりハトたちは何事があるたび、ひなび神社に相談に訪れているのである。  ハトは、てててて、とご神前に進むと、羽の間にかくしていたとっておきの木の実を賽銭箱に入れた。ちなみに神様とハトとの間では、言語の問題は全てクリアされていると思って頂きたい。   「弁天さま、お願いポッポー! 出てきてポッポよ……」  ハトは手羽の先をこすり合わせる。よくみるとハトの目にも涙。どうやら由々しき事態が起きているらしい。  必死の祈りが通じたのか、午睡をとっていた弁天さまが拝殿から姿を現した。 「あらぁ、おひさしぶりー、もしかしてドジっ子ハトちゃんじゃなあい?」 「そうでポッポ! 助けてポッポよー!」 以前からハナヒロの問題でひなび神社に祈願していたドジっ子ハトは、さっそく弁天さまに泣きついた。 「実は、今まで全力で応援してきたハナヒロがハト業界を裏切ろうとしているでポッポ……」 「あののんびりした二人が? そんな事あるかなあ?」  ドジっ子ハトの衝撃的な告白に、さすがの弁天さまも驚いた。弁天さまといえば芸能の神、今時の芸能人の事もよくご存じである。 「人間でありながらハトをこよなく愛し、ぐるっぽーの歌と踊りで、ハト人気を盛り上げていた二人がまさかの心変わりポッポ! エマージェンシーポッポーなのよッッ!!」  ハトは憔悴しきったように項垂れた。  
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