10月

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10月

 青く晴れた空、澄んだ空気。まさにスポーツの秋である。  今日は毎年恒例のお笑い芸人大運動会だ。審査員長は大御所オイリー、ゲストは天下のグラドル藍野マリアである。  ゆるい雑談を交わしつつも芸人たちは内心、いかにコケてみせるか、受けを狙うかのチャンスを伺っている。そんな野望渦巻くジャージ姿の芸人たちにまじり、ヒロとハナはハトの着ぐるみのまま呆然としていた。 「なんで僕らだけこの姿なんやろ……」 「ハナもそう思う? 俺も違和感ハンパないわ」 「けど佐崎さんが今日の衣装や言うてこれ渡したもんなあ」 「まさか間違えんやろ、着ぐるみとジャージは……」  間違えたのだ。  佐崎が今週の運動会と来週の仮装大会を混同したのである。最近、家事育児をさぼりすぎた佐崎は愛妻ぽんちゃんに怒られて上の空だったのだ。 「全然勝てる気がせえへんな」 「ええんやない? ハトなりに一生懸命やったらそれで」  競争心が欠落した二人は、そもそも勝ち負けに頓着していなかった。違和感を感じつつもハトのまま開会式に参列する。  そんな呑気な様子に歯噛みをしている人物がいた。  観客席の宮本である。巨匠はまたもや勝手に来たのである。  ヒロの写真集も完成までもう少し。  しかし宮本はその最後に生命力あふれる一枚を切望していた。  今回のテーマは宇宙。宇宙とは生命の根源。どうしてもそのエネルギーを写真に込めたかった。先日もスタジオで撮影を行ったが、全く納得のいく出来栄えではない。  俺は本当の汗が欲しいんだ。  わかるかヒロ、サバンナで獲物をしとめる獅子のような躍動感あふれるお前をみたいんだ。茶の間で手を伸ばしてせんべいを取ってるようなだらだらした動きなんか見たくない!  
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