1.

6/14
前へ
/609ページ
次へ
 コンビを組んでいると必ず受ける質問がある。  それは、相方をどう思っているか、ずっと一緒にやっていくつもりですか、だ。  しかもそこには、質問する側が期待する、確固たる答えが用意されている。 「お互い、いつもとなりにおって、そこら辺は口に出さなくてもわかってるんで」  ハナはごく自然に答える。。 「他に色んな仕事もさせてもろうてますけど、解散とか考えたことないですね。やっぱお笑いが僕らの土台で、帰ってくる場所ですもん」  記者は笑う。ハナも。  決まりきった質問に対する、決まりきった答え。そこには美しい予定調和がある。そのお約束は、全てに適用する。  ハナは勘がよかった。  インタビューに答えるとき、舞台に立つとき、ファンの期待に応えるとき、そこにはいつも、質問する側の口に出されない答えがあった。  実際、本心は関係なかった。相手の求める答えさえ言っていれば、スタッフもプロデューサーも、にこにこ笑ってくれる。  あまりに勘が良く、あまりに上手に演じ過ぎたせいで、ハナはわからなくなってしまった。  どこまでが用意された答えで、何が自分の本心なのか。  本当はどうしたいのか、ずっとこのままなのか。  何だか、いつも心のどこかがくすぶるようにイラつくようになった。それを飲み込んで笑っているうちに、訳もなく突然泣きたくなったりした。  こんなん、僕だけかな。  隣で笑っているヒロを見て思う。ヒロは絶対に音を上げない。どんなにスケジュールがきつくても、休みたいとも、仕事を減らして欲しいとも願わない。  僕がへタレなんかな。  自分がとんでもなく甘ったれてるような気がして、余計に口に出せなくなる。  でも、もし。  せめて少しだけでもそんな気持ちに気付いてくれたら、この真っ暗な気分から立ち上がれるかもしれない。  言えないけど、わかって欲しかった。わかって欲しい人は、決まっていた。  ヒロしか、思いつかなかった。
/609ページ

最初のコメントを投稿しよう!

414人が本棚に入れています
本棚に追加