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心から念じるが、ハナもヒロもお遊戯をしているようなトロさである。
玉投げもぽーん、綱引きもびよーん。
およそ覇気が感じられない。戦いの場であれば、食らいつくようなヒロの姿が見られると思って参上したのに、どの選手よりポーっとしている。
宮本が諦めてカメラから顔を離したその時だった。
「それでは次は200メートル走! 勝利者にはなんとウサギ堂本舗のうどんを一年分です! しかも最高品質のプレミアムもちもち!」
司会者の声が高らかに響いた途端、ハナの目がきらりと光った。
ちなみに前回杵つきだんごのCMをしていたウサギ堂は、粉ものを手広く展開しており、もちもちうどんも人気商品である。
「ヒロ、聞いたっ?!うどんやて!しかもプレもちうどんはスーパーでは手に入られんネット限定品や。販売と同時に売れきれる幻のうどんやねん!」
「そないにすごいのん? でも俺ハナの作ってくれたうどんなら何でも……」
「僕ら今までうどんにどんだけ助けられてきたか……思い立ってすぐできる、おかずもいらん、日持ちもする……それが一年分や、一年間うどん買わんでええねん! 夢のようや!」
ハナはやりくり上手の主婦のように興奮していた。
たしかにこの二人の食卓は、何かというとうどんである。
体力をつけたい時は卵を落とし、風邪気味のときはネギを増量、仕事で頑張った日は商店街でエビ天を買ってのせる豪華バージョン。悲喜こもごも、日常とうどんは密接している。
「ハナのおうどんは絶品やからなあ……今夜もうどんがええなあ、あったかうどん、おつゆたっぷりの」
「僕これ欲しい」
ハナは目をきらきらさせて言った。正確にはギラギラだが、どんな時もヒロの目には愛くるしく映るのである。
「ヒロ、このうどんもろたら毎日めっちゃ美味しいうどん食べられるんやで」
「ハナ作ってくれるん? なら俺がんばる」
「勿論や! 僕もがんばる!」
思いがけずスイッチの入った二人。位置決めからぐいぐいと前にでる。これまでと違う気迫に観客席の宮本も身を乗り出した。
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