11月

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   人気シリーズねこたん。  猫語のわかる探偵、通称・ねこたんが活躍するこのシリーズは、連ドラから映画まで、通算すると早くも5作目になる。  節目となる今回、遊び心と話題作りで、おなじみの芸人メンバーも友情出演することになった。当初、ハナと一緒にドラマに出演できるとなってヒロは大はしゃぎだったが、いかんせん芝居はやった事がない。  なのに各メディアには『ヒロ!役者初挑戦』と大々的に騒がれてしまい、ヒロはプレッシャーで昨日から一睡もしていなかった。  出番はわずかだ。  探偵が和気藹々と秋のピクニックを楽しんでいると、そこにお馴染みの刑事が『大変だ探偵、事件だ!』と割り込んでくる。  よくある始まりのシーンである。  ヒロはただ美味しそうにお握りを食べて、うまいと言えばいい。それだけなのだ。  しかし、ここぞという時に石化してカチコチになるヒロは、やればやるほどぎこちなくなってしまう。すでに齧ったおにぎりは10個を超えていた。  心配そうにハナが耳打ちしてきた。 「ヒロ、大丈夫? 緊張するんやったら衝立の後ろで内緒の練習しよか?」 「そんな、悪いやろ。ハナは主役や。昨夜も何度もつきおうてもろたし、ハナだって台詞おぼえな」 「気にせんでええよ。僕、台詞は全部入ってる」 「ぜっ、ぜんぶ?! 本一冊分やで?!」 「うん、僕、現場には台本持ってこんから」 さらっとプロとアマとの実力差を思い知らされ、ヒロは涙目になった。  しかもそのヒロを食い入るような眼差しが貫いてくる。  それは役者一筋、強面で知られる鋼一徹だった。ヒロでつっかえたせいで、ずっと出番待ちしているのである。背筋にさらなる震えが走った。 (鋼さんめっちゃ睨んどる……!あの人はほんまもんの役者や。中途半端なことをしたらハナにも恥をかかせてまう。失敗したら絶対アカン……!)  
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