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暑い日だった。
エアコンを入れてるのに、汗が滲んでくる。
ハナは朝から不調で、顔色も悪く、口数も少なかった。ヒロはリハーサルの合間に、別の取材を受けたり、いつにも増して多忙だった。
長時間の打ち合わせが続く。最近ハナの状態が悪く、ヒロは仕事をしながらも気が気ではなかった。面白くもなさそうに、じっと話しを聞いているだけでおよそやる気が感じられない。それをかばように、ヒロは余計に身をいれて打ち合わせに参加した。
この世界は激しい競争社会だ。ただでさえ気を抜けない仕事なのに、さらに神経を使う日々にヒロも疲れきっていたのだ。
部屋は蒸し暑くて、仕事は予定よりずいぶん遅れていた。
休憩に入ったとたん、無言で控え室にこもり、人形のように無表情で黙りこくっているハナに、猛烈にイライラした。
「なあ、もうええ加減にせえや!」
拳で思い切りテーブルを叩いた。
ハナは一瞬、びくっとしたが、やがて面倒臭そうに顔をそむけた。
「どういうつもりなんや」
多分、その時、ヒロは焦っていた。暑さや、疲れや、何より、先が見えないことに。
これ以上言うまい、と何かがブレーキをかけようとするのに、無反応のハナに、もっともっと強く叫ばなければ届かない気がしてつい怒鳴った。
「いつまで黙ってるつもりなんや、ハナ、これは仕事やで。いくら何でもその態度はないやろ。スタッフやゲストに失礼やないか」
「……」
「何か言えや!」
ハナは眉間に皴をよせたまま、目線を彷徨わせた。
「……これが、僕や。」
ハナは瞬きもせず、ヒロを見つめた。
唇が、わななくように震える。
「ヒロも、同じや」
「どういう意味や」
「もうええ」
ハナはもう、全てを嫌悪しているように、目を閉じた。
この目に映る全てのものを憎んでしまう。だからもう何も見ない。
それぐらいの強い強い拒絶を、ヒロは感じた。
取り返しがつかないことだった。
そしてその予感通り、これ以降、ハナはさらに状態が悪くなった。
時には仕事中でも隠しきれず投げやりな態度が出てしまう。気力とか、意欲とか、そういったエネルギーが底をついたようだった。
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