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 そこに罪悪感もある。いや、最近ようやくそんなことに気付けるようになった。それまでは自分のことでいっぱいいっぱいで、迷惑をかけることはわかっていても、いろんな事に無神経だった。  ハナは空を見上げた。ぼんやり、雲の流れを見つめている。  忙しい人の波の中で、ハナだけ歩くテンポが違う。足早に通り過ぎた人を見送りながら、胸を抑えた。じわっとした痛みだ。  誰もが帰る場所がわかっているのに、自分はどこに行こうとするのかすらわからない。  ずっととなりにいたヒロがいない。  前はそう思うだけで、勝手に涙が出てきた。でも今は泣かないでいられる。  正直言って、はじめはこの一人で過ごす時間、途方にくれていた。仕事中は全て誰かに指示されて動くだけだったから、こうしてぽっかり一人きりになると、どうすればいいのかわからなかったのだ。  この世界に入るまで、子供だった頃にできていたことを、ハナは手探りで思い出さなければならなかった。  今はちょっとだけその感覚を思い出し始めている。  電車に乗ること。食事を自分で作ること。好きな物や、好きな音楽を探すこと。 ハナはまるで一つ一つ自分を組み立てていくように、普通の生活にあるべきものを大事にしようとした。 芸能人としてやっていくことに覚悟を決めた途端、そういったものときっぱり決別してみせた相方とは、全く逆だった。     
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