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2.
あれからヒロはよくハナの家にやってくる。
それはいつも唐突で何の約束もない。食事を一緒にすることもあるし、顔だけみて帰ることもある。だが自然を装いつつも、ヒロが時間のやりくりに四苦八苦しているのは明らかだった。
本来、ヒロは用事がなければ動かないタイプだ。
余計な事は言わないが、かなり心配させているのだとハナは思い、悪いと思いながらも、じんわり嬉しかった。
自分でもずいぶん元気になってきたのがわかる。
ヒロがきた日は、前と同じ感覚で笑ったり話せるようになってきた。上京後にこんなに二人で向き合う時間がとれたのは、初めてだった。ずっと慌ただしかったのだ。
それでもこれ以上、ヒロの忙しさに拍車をかけるのは居たたまれない。だから、ハナはしばらくして、単刀直入に切り出した。
「ヒロ、僕もう大丈夫や。無理して来ないでええよ」
ちょっと無理をして言った。だから気付かれたくなくて、うつむいたままだ。
「えー? 違うて。居心地ええのや、ここ。すっごい楽」
案の定、ヒロは否定する。ハナは手を横にひらひら振った。
「気い使うなって。もうええねん」
「俺が気を使こてるように見えるか?」
確かにヒロは自宅のようにだらだらとくつろぎ切っている。さっきまではハナの作ったうどんを食べてご満悦だった。二人は同郷なので味の基準が似ている。
出汁よし、塩加減よし、醤油の濃さがよし、とヒロはいたく気に入って、最近では来るたびにリクエストされる。
「ハナ、お茶も飲みたい」
「それはええけど、話が途中……ちょっ、」
ハナはようやくヒロの恰好に気が付いた。
「それ僕の部屋着やろ、勝手に着るなや。大体それ、昨日君がそのジャージずいぶんボロやな、ってけなしてたヤツやぞ」
ハナは部屋の真ん中で仁王立ちになり、ヒロを咎めた。
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