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5.
「ね、今日のスケジュールだけど、」
「ああ、うん」
佐崎に言われて、ヒロは我にかえった。
車に乗り込んで、佐崎を待つまでの束の間、眠ったらしい。
佐崎は同情したように温かいお茶を渡してくれる。ヒロはすぐには飲まず、ペットボトルを両手で包んで暖をとる。
「ごめんヒロ、休みとれなくて。収録のあとで、雑誌の対談が入っちゃったんだ」
「そっかあ。時間あいたらネタの仕込みしておきたかったんやけどなあ」
残念そうに天井に息を吐き出す。佐崎は相変わらずお笑いに熱いヒロに苦笑する。
「今度は何するつもり?」
「うん、銀色のお盆持って、際どいあたりで、よっ! とか、はっ!とか見えそうで見えない……、ダンスと組み合わせたらおもろないかな、と思って」
ヒロは目をキラキラさせているが、佐崎は早くも絶望的な気分になる。
「それ人のネタだし、間違ってもハナヒロって感じじゃない」
「ええ? なめんなや。家でやってみてんけど、俺、けっこうモノにしとるで?」
「この忙しいのにそんな練習? 寝てよ!」
今にも上着を脱ぎそうなヒロを佐崎は一喝した。
「改変で特番の時期だからバラエティーの需要が多いんだ。もうしばらく頑張って」
「しゃあない。スタジオまでどれくらい?」
「あと三十分くらいかな」
「そか」
車が走り出すのと同時に、ヒロは目をつぶった。
移動のときはなるべく仮眠をとるようにしている。ハナが休んでから、ヒロのスケジュールはつめっきりだった。
でもそれは自分が言い出したことだ。だからヒロから愚痴が漏れたことは一度もない。
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