お久しぶりのぐるっぽ! 月めくりカレンダーの巻

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お久しぶりのぐるっぽ! 月めくりカレンダーの巻

 スタジオの片隅で佐崎は腕組みをしていた。  あっという間に一年が終わろうとしている。  今年も駆け抜けた一年だった。  ハトダンスがブームを巻き起こし、ハナヒロは一躍人気芸人の仲間入りをした。日本中でぐるっぽー、老若男女がぐるっぽー、テレビでハナヒロを見ない日はないぐらいの盛り上がりで、その年の紅白歌合戦では最高視聴率をたたき出すという奇跡まで起こしたのである。  しかし肝心なのはヒットの翌年だ。  敏腕マネージャー佐崎は、早くから危機感を持って新たな年を迎えた。ブレイクが大きければ大きいほど、世の注目は高まる。ここでコケたら(なんだ結局ハトじゃん)と一気に熱狂は醒め、一発芸人として二人は消えてしまうだろう。 (今年こそが勝負だ。人気はあるけど実力がない……顔は良いけどネタはない……運はあるけどセンスはない……この難題をいかに乗り切るか)  上げたり下げたりしつつ、佐崎は数多の戦略を立てる。  寝ても冷めてもハナヒロのことばかり、愛妻ぽんちゃんが茶の間でハトダンスを踊り狂っている間も、双子の愛息をだっこ&おんぶをしている間も、絶え間なくハナヒロが生き残る道を考え続けたのである。 (やはり狙い目はこれだ。特に漫才をしなくても、なんとなーくお笑い界の定番キャラとして生き残る芸人がいる。  そう、メインになる必要はない。カレーに寄り添う福神漬けのように、ラーメンにハラリと散らばるネギのように、ゆるく存在しているのに、やっぱいるといいよね!的な枠を狙うんだ。今年はあらゆるジャンルに露出して土台を作る!)  しかし、佐崎のコバンザメ戦略は順調ではなかった。  外野がうるさかったからである。 (本当に今年もはじめから終わりまで邪魔があれこれ……だけじゃない、余計な口出し……ちが、アドバイスをしてくれる人もいたし………)  本音をボロボロと取りこぼしながら佐崎はため息をつく。  そのため息にかぶせるように、ちょうど午前一時のアラームで腕時計が震えた。お馴染みの番組のテーマ曲が流れる。
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