第1章

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「お世話になってます。今日は主人が仕事なのもですから」 足元の美紅ちゃんを愛おしそうに撫でながら微笑んでる。 綺麗な人。想像してたより数十倍綺麗だ。高嶺さんと並べば美男美女の夫婦だよね。チクリと差し込む痛みで胸を押さえながら美紅ちゃんの通園バックをお渡しする。 「き、今日の美紅ちゃんは給食も全部食べました。お昼寝も沢山出来ましたよ」 「そうですか。そんな報告を聞けるんですね。それにこんな可愛い保父さんがいるなんて聞いてませんでした。主人が迎えを楽しみにしてたのがわかる」 口元を押さえてクククッと笑った。高嶺さんがお迎えを楽しみにしてくれてる?まさか俺と会えるから? ないないない。 高嶺さんは美紅ちゃんに会えるのを楽しみにしてるんですよ。だって迎えに来られた高嶺さんは本当に幸せそうに美紅ちゃんを抱きしめてる。 そう言ってもらえるのは嬉しいけど勘違いです、奥様。 「高嶺さん、お仕事忙しそうですね」 「今日は接待なので専務と女の子が沢山いるところに行ってます」 専務さんの接待かぁ……女の子、モテてるだろうな。そんなことより奥様は心配じゃないんだろうか。 「心配じゃないんですか?」 ニコニコと僕を見て微笑んでる奥様に疑問を投げかける。 「高嶺はモテますよ。あのナリですから。でもそんなことは心配してませんよ」 余裕だ。僕ならヤキモチ妬いてワーワー言っちゃう。大人だな。結婚っていう絆がそうさせてるのか。俺も結婚すればそんな余裕ができるんだろうか。妄想してもやっぱり僕はワーワー言ってヤキモチ妬くと思うな。 「先生の方がよっぽど心配そうですよね。大丈夫、彼は浮気はしませんから」 そっか、そうだよね。奥様も美紅ちゃんも大切にしてる高嶺さんだもんね。浮気なんてしない。絶対しない。大きく頷いて奥様を見れば、口元に手を添えて笑いを堪えてた。 「それじゃ、いいもの見せてもらいました。明日もよろしくお願いします」 深くお辞儀をされる奥様につられて頭を下げた。 いいもの?ってなんだろ。 美紅ちゃんの手を取り、扉を開ける奥様の後ろ姿を見送る。綺麗な人は後ろ姿も綺麗なんだな。なんて思いながら少し重くなった胸を押さえながら保育室に戻った。
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