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さっきまでの不安な気持ちはどこに行ったのか。
隼人の声にその言葉に浄化されたように消えてなくなる。隼人の言葉を信じよう。そう思うだけで心が軽くなった。
お互い一人きりの部屋。こうやって話しているだけでもムラムラと身体に火がつく。
「隼人、こんな機会ないことだし……」
そう誘おうとした言葉と隼人の声が重なった。
「離れてると琥太郎さんに片思いしてた時のことを思い出します」
俺の浅ましい思いと裏腹に、隼人は俺への想いを口にする。あわよくば電話で……なんて思っていた俺は慌てて口を噤んだ。
「俺に片思い?」
「そうです。仕事から帰って毎日、琥太郎さんのことを考えてました」
穏やかに話す隼人の声は、片思いしていた時に戻っているようで懐かしさを含んでいた。
「もしもって、もし琥太郎さんが僕を見てくれたらって妄想してたんです」
クスクスと笑ってフッと息を吐く。
「そんな、もしもなんて絶対ないのに……って妄想と落ち込みとを繰り返してたなって」
俺を想い苦しんでいたのか。隼人にとっては俺は既婚者で、望みのない相手だったはず。それでも人を思う気持ちは止められはしない。
「俺だってそうだよ。隼人は美紅の先生で、俺は保護者だし、男だし。でも隼人が俺を見る目は想いを寄せてくれてるってわかってたよ。いつもキラキラした目で見つめてくれる。そんな隼人に応えたくて俺なりに頑張ってた。カッコつけてたよ」
好きな相手によく思われたいと思うのは誰でも同じだと思う。カッコよく見せたいだとか、気を引きたいと思うものだ。
「カッコですか?琥太郎さんはいつもカッコいいです。何をしてもサマになる。所作一つでも素敵ですよ」
今度は大きく溜息を吐く。想いの詰まった言葉が耳に届く。
「琥太郎さん、好きです」
囁いたその声が、俺を想い続けてくれていた隼人の気持ちに触れた気がした。
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