第1章

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 Aは俺の友人だが、そいつが言うには最近すきまが気になってるらしい。 「すきま? どういうことだよ」「お前は感じないのか、すきまから視線が」「視線? 何だ、お前の家に何かいるのか」「ペットを飼った覚えはねーよ」「じゃあ、何だよ。もしかして、どろ」「泥棒の方がまだマシさ」  友人が言うには幽霊だと思う、だとか。  俺は正気を疑ったが、俺が信じてくれないことにAは腹を立て、すぐに電話を切った。後日、また電話をかけてみるが、つながらず、心配になってあいつの家に行ってみた。 「おーい、電話にも出ないでどうした――え?」  鍵が開いていた。  Aが住むのは二階建てのアパートの一室。裕福には見えない外観だが、鍵なしで済むほどお気楽でもないだろう。俺はドアを開けてAの名前を呼ぶが返答なし。 「おい、まさかお前」  嫌な光景を思い浮かべる。風呂場などでAが足をすべらせ、頭を打ったのではないかと。しかし、六畳間の部屋には誰もおらず、トイレも風呂場も、いなかった。 「はぁ?」  辺りをキョロキョロするが全く見当たらず、どうしたもんだと困っていると視線を感じた。 「あ、何だ」  六畳間と狭い部屋だからベッドや本棚、机などがギュウギュウでつまっている。そのため、スペースの余裕などなく、中土半端な隙間もできるのだ。ベッドと壁の隙間や、本棚と机の間――隙間とか。 「………」  あいつは言っていた。隙間が気になる――俺は手をつかまれるように隙間に目をやりそうになるが、かぶりを振る。理性が無意識にストッパーをかけた。俺はAに電話をかける。もしかしたら、鍵のかけ忘れ、ちょっとコンビニいく用事で開けたままにしたかもしれないと、トゥルルルルルルッと電話が鳴る。  電話はベッドの隙間から聞こえてきた。  た、すけ、て。  かすかだが、声がした。  俺は、心臓が鷲掴みされるような感覚に陥り、恐怖に包まれながらベッドの隙間をのぞいた。そこにはわずか数センチの隙間に、ピザ生地のように平らにされたAがいた。奴より、スマホの方がでかく見えて「おまえもすきまがすきか?」俺の背後から、Aじゃない声が聞こえた。 (了)
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