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横顔の可夜子。ふっくらした輪郭を包むようにして、陽の光が髪の毛を透かしてきらめいて見える。
黙ったままふたりで海を見る。
青く、けれど空とはきっぱりと分かれた水面のきらめき。
「私、先降りていくね」。
可夜子は、突然言う。
そのまますたすたと、振り返らず歩き始めた。
あ、つむじ。
可夜子の頭を見下ろしたことなかったな。
意外と、とんがってるな。
つむじは左巻きなんだな。
ずっと見えていなかったことがあって、たぶんお互い知らないまま消えていってしまったものがたくさんあるんだろう。
不意に校舎から可夜子が歩いているのを見下ろした記憶がよみがえる。
ずっと見ていたくて、恥ずかしくて、あの頭をつまみ上げて手の中でそっと撫でたくて。
風が頬に吹きつけてきた。
海風に桜が舞う。
空想の中なのか、記憶の奥底なのか、現実なのか、可夜子は前を向いて歩いていく。
どこにも行けない僕は、海を見下ろす桜の木のもとでそれをただ見送った。
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