君のつむじを見下ろしながら

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いや、あのとき以来なのか、何なのか。 そもそも、はっきりした別れなんてなかった気もする。 入社した通信会社で、こっちは仕事に慣れるのに必死。可夜子は可夜子で、ずっと憧れていたレコード会社に入ることができて張り切っていたし、お互いにまわりにいる人間がガラリと変わった。 こっちは体育会気質の上司や、軽い口調ですいすいと世渡り上手の同期やら、厳しい女の先輩とか。 学生時代の人間関係なんて、たやすいものだと思い知る。狭い鉢のなか、表面をなぞるようにして、すいすい泳ぐ。飼われた金魚みたいなものだ。 もう一方は、敏腕プロデューサーや、音楽雑誌の編集者や、スタイリスト。 時にはアーティスト本人。 しょせん、新入社員だからそれほどでもなかったのかもしれないけれど、可夜子の口から出てくる単語があまりにもきらめいて聞こえたし、可夜子自身もまぶしさの中で、目をつむったり見開いたりしながら、その世界を踊りきろうとしていた。     
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