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改札を潜り抜けた人たちは、どの人も行く先や迎えにきた人、帰る場所に向かって、少しせいたようなスピードで足早に散って行く。
一気に人の群れが過ぎたあとは、改札に人かげはなく、またシンとした空気が漂ってきた。
ふっと流れが途切れると、遊びに来るなんてメールが嘘のように思えてしまう。
次まで待とう。
あと3本ぐらいは、様子を見よう。
次の新幹線に乗ってなければ、どこかの店で時間をつぶしながら。時間になったら、また改札に戻ればいい。
いや、一日中待っていたっていいんだ。
どうせ、今日は丸ごと開けてあるんだから。
可夜子のためにあげた土曜日だ。
そう思った瞬間、階段を駆け下りるようにして、手を振るネイビーのワンピース姿が目に飛び込んでくる。
あの少しピョコッとする歩き方。
変わってない。
大学の中庭で、学食で、階段教室で。
いつも跳ねているような子だと思ってた。
2人の間の出来事は、忘れたことも色々あるはずなのに、その動きを見た途端、不意にあの頃を思い出す。
時の区切りをつけるチャイムの音、退屈な哲学の授業、窓の外に黄金色に広がるいちょうの木。
「久しぶり」。
思わず口元がほころんでしまう。
「意外と近いね。新幹線乗ったら、あっという間」。
可夜子はあたりを見渡しながら言う。
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