0人が本棚に入れています
本棚に追加
今度は自分のほうが焦るような気持ちで、あれこれ話し始める。
なんだか大人っぽくなったな、牛タン定食のトレイ越しに見て思う。
あ、髪型なのか。
大学生の頃は、可夜子は前髪を切り揃えていて、時折、それを指先で、はらうような仕草をよくしていた。
今はゆるやかに顔のまわりを流れるようにして、額を出している。
かしこげで、落ち着いた女の人のように見えるし、だいぶ髪が伸びた。
「なんか、太ったんじゃないの」。
「おっさんに片足突っ込んでるからな」。
ふっ、と可夜子が笑う。
その後、こちらをじっと見てきた。
探るような。観察してくるようで、でも少しいたわるような顔だ。
あれ、ここケラケラ笑うところじゃなかったっけ。勘どころが狂う。
小さな沈黙を振り払うようにして、飯をかきこむ。
牛タンはコリッとした歯ざわりで、不意に噛みつくようにして抱き合った、あの頃を思い出して、恥ずかしくも、おたついてしまう。
可夜子をちゃんと見れない。
知っている顔を探してしまうのに、知らない顔に戸惑いつつも見入ってしまう。
そんな様子に気づきもせずに
「おいしいね。普通に結構、牛タン食べるんだけど、やっぱり本場?って気分になると違うよね。ほんと、ただの気分的なものかもしれないんだけど」
最初のコメントを投稿しよう!