君のつむじを見下ろしながら

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今度は自分のほうが焦るような気持ちで、あれこれ話し始める。 なんだか大人っぽくなったな、牛タン定食のトレイ越しに見て思う。 あ、髪型なのか。 大学生の頃は、可夜子は前髪を切り揃えていて、時折、それを指先で、はらうような仕草をよくしていた。 今はゆるやかに顔のまわりを流れるようにして、額を出している。 かしこげで、落ち着いた女の人のように見えるし、だいぶ髪が伸びた。 「なんか、太ったんじゃないの」。 「おっさんに片足突っ込んでるからな」。 ふっ、と可夜子が笑う。 その後、こちらをじっと見てきた。 探るような。観察してくるようで、でも少しいたわるような顔だ。 あれ、ここケラケラ笑うところじゃなかったっけ。勘どころが狂う。 小さな沈黙を振り払うようにして、飯をかきこむ。 牛タンはコリッとした歯ざわりで、不意に噛みつくようにして抱き合った、あの頃を思い出して、恥ずかしくも、おたついてしまう。 可夜子をちゃんと見れない。 知っている顔を探してしまうのに、知らない顔に戸惑いつつも見入ってしまう。 そんな様子に気づきもせずに 「おいしいね。普通に結構、牛タン食べるんだけど、やっぱり本場?って気分になると違うよね。ほんと、ただの気分的なものかもしれないんだけど」     
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