君のつむじを見下ろしながら

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ぱくつく間に、覗き込むようにして、にっこり笑いかけてきた。 これは変わらない可夜子。 大学の教室で、肩ごしに振り返って 「ね、意味わかる?」 ひそひそ声で話しかけてきたときの、あの顔。 ほっとした。 何度、こんな風に食事したんだろう。 よく食べたのは、近所のかどや。カウンターだけの夫婦ふたりがやっているごはん屋で、おばちゃんおじちゃん何か食べさせて、と軽口をたたきながら、ほぼ毎日のように通った。 ポテトサラダが90円、玉子焼き120円、というような店だった。 やがて、可夜子を連れていくようになり、疑似家族というのは大げさだけれど、なんとなく自分のテリトリーの中で、くつろいでくれる姿を見るのが、うれしかった。 二人で一つの単位というか、そんな風に振舞った最初の場所だったかもしれない。 かどやの思い出に重なるような、牛タン定食というメニューが学生時代の延長のようで、かえって地続きのまま、昨日も先週も同じように過ごしてきたようにも思えた。 肝心の桜を見に行こう。 200本の桜咲く公園がいくつかあり、夜も見事だ。 先週はまだ蕾の状態だったものの、気が早い花見客で普段よりも賑わっていた。 可夜子に、その話をすると、その前に、地元の人だからこその、とっておきの桜を見せてほしい。     
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