君のつむじを見下ろしながら

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そんなことを言うものだから、市内から離れて、神社の桜を見に行くことにした。 電車で45分ほどの場所にある。 海が見えて、街も一望できる。 桜の中から、遠くはるかに広がる世界を見るようで、仙台に暮らし始めてから、幾度となく、一人で来た場所だった。 階段を上りながら、可夜子が不意に言う。 「地震のとき、知ってる人とか…」。 最後まで言わないのが、彼女の美しさだ。 賑やかそうでいて、その奥にいつもいたわりがある女の子だった、 「あ、うん。よく知っている人というよりも、仕事の取引先の方とか」。 「そう」。 色々話し始めてしまいそうになるけれど、なぜか言いたくなくて、黙った。 大きくうねる水のこと。 暗い夜の底に閉じ込められた。 寒くて、それなのに寒さを感じることもできなかった。 体の芯にその感覚が刻まれてしまっている。 それなのにすべてはわずか数十秒の出来事だったのだ。 あの大きな地震のすぐ後に可夜子が東京の実家を訪ねてくれたことを知っていたし、そのとき、確かに可夜子の中で、僕は死んでいたんだと思う。 だから、桜の時期に遊びに来てくれたのかもしれない、とも思った。 「ほんと、まだ寒いんだね」。 目の前をかすめるようにして、長い髪がたなびいた。もう知らないシャンプーの香りだ。     
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