呪われた物語

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 この世の中には、絶対に読んではいけない小説が存在する。  読んだ人は三日後に必ず不慮の死を遂げるという、呪われた小説だ。  その部屋でひとりの小説家志望の男がパソコンに向かって小説を書いている。男の名前はどうでもいい。その部屋が問題なのだ。  その部屋は尼崎市にあるアパートの一室である。  男は熱心に小説を書いている。  必ず偉大な小説家になれるはずだと信じて書き続けている。  男は何か月も何年も、孤独に、誰にも心を開かずに小説ばかりを書き続ける。  頭をかきむしって、唸り声をあげながら書き続けている。  だんだん男の書く小説の内容が変わって来る。  最初男はラブコメばかりを書いていたが、いまでは男は薄気味悪いホラー小説しか書かない。  大量の血が流れ、何人も無残に死んでいく、読むに堪えない小説だ。  男は自覚していないが、それはその部屋が書かせているのだ。  男がその部屋に越してくる五年ほど前に、狂った父親の手による一家無理心中があったのだ。  狂った父親は、妻と幼い三人の娘を絞め殺した。  家族を殺したあと、狂った父親は包丁で自分の腹をかっさばいて死んだ。  かつて凄惨な事件があったことは、世間知らずの男は知らないまま住んでいる。  孤独に執筆に明け暮れる男は狂った父親の声が聞こえるようになった。妻や幼い三人の娘の悲鳴も聞こえるようになる。  男はおびえるどころか、狂気や悲鳴を小説として書き綴っていった。  父親の狂気を、妻や娘の無念さを小説に刻み込んだ。  男はその小説を書きあげると、投稿サイトに投稿した。  そして、男は灯油をかぶって焼身自殺を図った。  この世には、絶対に読んではいけない小説が存在する。  その小説を読んだ者は、三日後に必ず不慮の死を遂げる。  三日後に必ず死ぬ。  呪われた物語だ。  それがこの小説だ。  読んだら、三日後に必ず死ぬ。  この物語は呪われている。  そう、三日後に死ぬのは、あなただ!
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