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中学生の頃の話です。
当時、私は幼い弟と同じ部屋――和室に布団を並べて一緒に寝ていました。
ある夜のことです。
ナニカの音が耳に届き、私は目を覚ましました。
豆電球がぽぅっと灯り、ほの暗いなかで目を凝らすと、上半身を起こした弟が、しくしく泣いてしました。
「どうしたの?」
私は寝ぼけまなこで尋ねます。
「お姉ちゃん……」
弟はしゃくりあげます。
「あのね、お布団とられちゃった」
そう答えて、弟は、
天井
を、指さしました。
私はついその先を仰ぎ見ました。ですが何もありません。何もいません。
何なのよ? と思いましたが、確かに弟の掛け布団は見当たりませんでした。寒そうにガタガタと震えています。
きっと部屋の隅にでも蹴飛ばしたんだろう――そう考えました。事実、朝起きたら、弟の掛け布団はちゃんと室内にあったのです。
眠くてたまらなかった私は、弟を引き寄せて自分の布団に入れました。
弟の小さなからだはとても冷えていました。
翌日も同じことが起きて、私は目覚め、弟を布団に招き入れました。
その次の日も、更に次の日も。
きっと弟は寂しいのだろうと思いました。
私たちの両親は忙しく、ほとんど家にいません。
せめて姉である私にだけは構ってほしくて、布団が無くなったと嘘をつき、一緒に寝ようとするのでしょう。
困ったものです。けれど愛しくも感じていました。
こんなことが続いた、ある真夜中でした。
私はふと、目を覚ましました。
弟の泣き声に起こされたのではありません。
目線を隣にうつすと、弟は眠っていたのです。安らかにすぅすぅと寝息を立てて。
ちゃんと掛け布団を頭までかぶって、寝顔は見えませんが熟睡しているようでした。
ああ今日は大丈夫なのか――と安堵した、その時でした。
……弟のすすり泣く声が、ふと、耳に。
弟は隣で眠っているのに。
私は目を瞬かせて、ゆっくりと、天井を見ました。
そこには、泣いている弟が、ぴったりと、張りついていました。
弟はしゃくりあげて、手足をぶらんぶらんさせて、私を見下ろして、哀しげに訴えました。
「お姉ちゃん、お布団、奪られちゃった」
了
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