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「相次ぐ不審死、って言われてるのに何で交通課の俺らが駆り出されるんスかねえ」
「ビビってんじゃねえよ、タニシ」
「西田ッス、先輩!」
新人警官の西田はパトカーを運転しながら、不安そうにこれから捜査する事件の経緯を思い出す。ある十字路でとにかく事故が絶えない。しかも事故後にドライバーが死亡するのだ。検死の結果、どの被害者もまるで誰かに握りつぶされたように心臓を破裂させている。不思議と生き残った数人の証言を聞くと、一様に「誰かを轢いてしまったかもしれない」と答えているらしい。
「どうやったら心臓破裂なんてことに」
「開腹なしで人様の体内をどうこう出来るなんざ、トリックが判ったら特許がとれるぞ」
「トリックねえ……」
西田が曖昧に笑うと、先輩である熊村は叱咤する。
「馬鹿。幽霊の仕業でしたなんて、警察で発表できねえだろう!」
「俺も犯人がいるって信じたいッスけど~」
丁度、件の十字路に差し掛かった時だった。ごん、と鈍い音が車内に響いた。西田は慌ててブレーキを踏む。
「何だ、今の」
さすがの熊村にも嫌な汗が伝う。二人は即座にドアを開けて車外に飛びだした。
「誰もいねえ」
「車の下にも、何にもないッス!」
半狂乱になって西田は叫ぶ。
「ぜ、絶対、今、俺……誰か轢いたって、思って」
「アスファルトに凹みは」
「ないッス!」
「動物は?」
「いないッス!」
「車に跡あんのか?」
「な、あるッス! あ、ある!」
パトカーの前面にひしゃげた跡がくっきりと残っていた。そんな馬鹿な、と熊村は呟く。
「おい、タニシ。口裏合わせるぞ」
「は?」
「単純にお前は運転ミスで事故った。何かを轢いたなんてありえねえ」
「けど、先輩。あの感触はどう考えても誰かを……」
西田が抗議しようとすると、熊村はそれを遮って本部に連絡を始めてしまった。
結局、西田は始末書を書かされ、夜遅くまでこってり上司に絞られた。熊村は災難な一日だったな、と言い残してさっさと帰宅してしまった。しかし、どうしても西田は真実を話すべきだと思い、意を決して上司の元へ引き返した。
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