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口を大きく開けて笑った顔。
右側だけ浮き出るえくぼ。
「三十分も何してたの」
「見てた。寝顔。君の」
「うわ、キモっ」
「え、ウソでしょ。なんでよ。可愛いなー、つって見てたよ。高校ん頃から変わんねえなー、って見つめてたよ」
「いや、気色悪いわ。つか、お前は明日休みかも知んねえけど、俺は仕事だわ。トンチキな事してねえで寝ろよ」
「休んじゃえば?」
布団に入り直す俺の背後に、着替えもせず啓介が寄り添って来る。
無責任な事を抜かす男の脛を踵でげしげしと蹴ると、彼はまた「ははー」と笑った。
「君の寝方は綺麗でね、分厚い毛布を掛けていると、肺が上下するのも暗闇の中でよく見えないんだ。目が覚めたら口は悪いわ脚は出るわになるんだけど。まるで冷凍保存されたロボットみたいなんだよ」
「ロボットは冷凍されないんじゃね」
「それぐらい作り物めいてる、って話だよ」
酔っているのか、首筋にあたる息が熱い。
ごそごそと彼の腕が蠢き、スウェットの下から入ってきた手のひらが素肌に触れた。
その熱い手のひらはそのまま上半身を撫で上げ、平たい胸の真ん中で止められる。
「動いてる」
「そりゃあ、生きてるからなあ」
「心臓が動いてる」
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