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「タナカ ヒロシ、67歳」
「心臓疾患がある」
拓哉が机でウトウトしていると、外からでボソボソと話す声が聞こえてきた。
「でも交通事故」
「じゃ、行くか」
がくんと頬杖ら落ち、目が覚めた。ぼんやりした頭の中でさっきの会話を繰り返す。ギクシャクする体を動かして窓から外を覗いた。
拓哉の部屋は1階で、窓の外は路地に面した生垣だ。土曜の午後、気だるい空気が流れている。路地には誰もいなかった。夢、か…?
内容が内容だけに気になったが、勉強を再開するとに忘れてしまった。
数日後の夕方。学校から帰ると母親が家にいた。共働きの両親。母親が夕方の早い時間に家にいるのは珍しい。
「拓哉。今日、遅いの? 塾だっけ?」
母親が靴箱を開けながら聞いてきた。喪服を着ている。
「あ、今日、塾はないけど。これから友達ん家で勉強会ってことになって出る」
「そうなの? 悪いけど、夕ご飯、お弁当にしてくれる? これからお通夜に行かないといけなくて」
「うん、いいけど。誰? 俺、知ってる人?」
「田中さんっていってね、前の会社でお世話になった人なんだけど、交通事故で亡くなったって。心臓が弱い人だったんだけど、突然死らしいの」
じゃ、行ってくるわと、慌ただしく出て行く母親の背中を呆然と見送った。
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