窓の外

2/5
前へ
/5ページ
次へ
「タナカ ヒロシ、67歳」 「心臓疾患がある」  拓哉が机でウトウトしていると、外からでボソボソと話す声が聞こえてきた。 「でも交通事故」 「じゃ、行くか」  がくんと頬杖ら落ち、目が覚めた。ぼんやりした頭の中でさっきの会話を繰り返す。ギクシャクする体を動かして窓から外を覗いた。  拓哉の部屋は1階で、窓の外は路地に面した生垣だ。土曜の午後、気だるい空気が流れている。路地には誰もいなかった。夢、か…?  内容が内容だけに気になったが、勉強を再開するとに忘れてしまった。  数日後の夕方。学校から帰ると母親が家にいた。共働きの両親。母親が夕方の早い時間に家にいるのは珍しい。 「拓哉。今日、遅いの? 塾だっけ?」  母親が靴箱を開けながら聞いてきた。喪服を着ている。 「あ、今日、塾はないけど。これから友達ん家で勉強会ってことになって出る」 「そうなの? 悪いけど、夕ご飯、お弁当にしてくれる? これからお通夜に行かないといけなくて」 「うん、いいけど。誰? 俺、知ってる人?」 「田中さんっていってね、前の会社でお世話になった人なんだけど、交通事故で亡くなったって。心臓が弱い人だったんだけど、突然死らしいの」  じゃ、行ってくるわと、慌ただしく出て行く母親の背中を呆然と見送った。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加