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ホテルの近くのファストフード店で遅めの朝食を食べた後、帰るタイミングをすっかり失ってしまって、窓の外を行き交う人達をぼんやり眺めながら、たぶん夜にはもう思い出せないようなどうでもいい話をしていた。
スマートフォンから入試の合否がわかるそうなのだけど、水本は一向に合否を確認するそぶりをみせない。
凪のような会話を断ち切るようにテーブルの上のスマホが鳴り、親からだと水本は席を立った。
少しして戻ってきた水本は俯いたまま、日野のパーカーの袖を引っ張る。
「合格してたって」
おめでとう、と日野が言おうとした瞬間、氷を呑み込んだみたいに喉が詰まった。
「……良かった。おめでとう。これで春からは東京だいね」
日野は自分の言葉が空々しく思えた。心から祝福しているつもりなのに。最初からわかっていた終わりの時間が、今目の前で始まった。
「合格祝いは何が欲しい? これから使うものがいいさね」
「……いらない。何もいらない」
水本は日野の袖の端をぎゅっと掴んだまま口を結び、日野もそれ以上何も言えず。店内の喧噪は、ずっと遠い場所での騒ぎのように聞こえる。紙コップの中の溶けきった氷も飲み干してしまい、間を埋める為に口をつけるものもなくなってしまった。なんだかどうしようもなくなって、日野が口の端を持ち上げるように水本の頬を摘むと、少し表情を緩めてくれた。
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