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「もうそろそろ行こうか。このまま帰る? それともどっか行く?」
「……ホテル戻って、昨日の続きしよう」
日野が戸惑っていると、水本は「嘘だよ」と苦笑いをした。
「……どうせ出来ねえし」
「そうだ。あのさ、ピロシキ食べに行こうよ」
変に緊張して、ちょっと声がひっくり返った。僕の提案に、水本は顔をしかめる。
「水本が住んでた町のパン屋に行ったらさ、ピロシキがあったんよ。自然科学部に入ったばかりの頃に水本に好きなパン聞いたら、ピロシキって言ってたがね。合格祝いに僕が奢るから」
「ああ……。何を言い出すのかと思った。あの店、まだ潰れてないんだ」
水本が表情を緩めてくれて、ようやく日野は胸を撫でおろした。
いつもは日野を置いて早足でどんどん先へ歩く水本が、日野に合わせてゆっくり歩いてくれているのはきっと、雪で路面が凍ってるせいだけではない。
「こんな面倒な奴、いつでも切っていいよ。新しい友達が出来て勉強で忙しくなったら、日野はきっと俺のこと忘れちゃうよ」
「遠距離って言っても休みには逢えるし、メールも電話もあるさね。毎日するね。パンも作って送るから、冷凍庫開けといて」
「忘れた方がいいって。遠距離でうまくいったって話聞かないだろ」
「もうそんなこと言いなさんな」
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