126人が本棚に入れています
本棚に追加
二人でいる時だけ幼い子供みたいに無邪気に笑う水本のこと。永遠に失いたくない。
帰る前の晩は約束通り麻衣子に焼き肉を奢ってもらった。麻衣子は水本を見てやたら興奮して、写真まで撮っていた。やはりどこの誰が見ても、東京でだって水本は別格だ。
「水本くんは年上のお姉さんはどうかな?」
「そういうのやめてあげて」
「日野のお姉さんと俺が結婚したらさ、俺たち兄弟になれるよ」
「そういう提案もやめて」
日野の隣で冗談を言って穏やかに笑う水本は、彼がなりたがっていた「普通の高校生」そのものに思えた。この姿からは誰も彼の苦しみを想像出来ないだろう。
「なんでひーちゃんはこんなに残念に育っちゃったんだろう。小さい頃は可愛かったのに」
麻衣子はそう言いながら、二人の写真を何枚も撮ってくれた。どの写真も何の悩みなんかなさそうに二人並んで呑気に笑ってて、こんな顔してるわけないのにと日野は思ってしまった。
帰りの東京駅で水本が新幹線の切符を二枚分買おうとしたのを、日野は制した。
「買い方覚えたいから自分で買う。水本に逢いたくなった時に一人で新幹線に乗れないと困るから」
ビニール傘は姉の家に置いてきた。また東京に来た時に使う為に。次に来る時はテレビで見たのと同じ街ではなく、水本の住む街だ。
最初のコメントを投稿しよう!