つめたい星の色は、青

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 卒業のアルバムの写真は水本が撮ってくれた写真と全然違う、免許証と同じ変な顔だと日野は思った。水族館で撮った、日野を見上げていたずらっぽく笑う、日野にしか見せない表情の水本の写真を卒業アルバムのそれと見比べると、どれだけ特別に思ってくれているかがよくわかる。感情のないうつろな目をして日野のものを咥えてた、ああいう水本はもうどこにもいないと信じたい。  長い春休みの間、日野はほとんど店の手伝いをして過ごしていた。今までやらせてもらえなかった行程を教わったり、慣れない仕事に疲れるけれど、手を動かしていると気が紛れる。一日中働いて疲れて寝て、また朝が来る。日が昇る前に起きてパンを焼いて、昼は少し前の自分たちみたいな高校生にパンを売って暮らす。もし彼らがこの田舎町を離れたとしても、高校生の時に購買で食べたパンの味を思い出して欲しい。眠りに落ちる前にそんなことを考えてみたりもする。  眠れない時は親の車を借りて、音楽をかけながらあてもなく暗い夜の道を走る。車を停めてぼんやり星を眺めていると、暗い空に音もなく吸い込まれそうな気がして、日野は思わず息を止めてしまう。水本が昔言ってた「何にもなくなっていく感じ」とはこういうことだろうか。それに少しだけ、水本のことを見ている時の気持ちに似ている。この夜を越えれば必ず朝になると信じて、長い夜をやりすごすための光。春が近づくにつれ、星の光は真冬ほど鮮明ではなくなってしまった。でもいくら速度を上げてもあの青い星は追い越せない。     
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