つめたい星の色は、青

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 言われて初めて気付いて、ぞっとした。去年のことを踏まえてそう言っているのか、それとも他の誰かにもそういう行為をされていたと気付いていながら、ずっと知らないふりをしていたのだろうか。逃げても逃げても足首を掴まれて暗い場所へ引きずり込まれる。もっと強い力で水本を引っ張り上げなければと思うのだが、握る拳に力が入らない。 「明日もどっか連れてって。駅前のロータリーのとこで待ってるから」 「車乗るの、大丈夫?」 「日野の車だから乗れるよ」  電話の向こうの声だけでも、水本が相当無理をして明るく振る舞おうとしてるのがわかる。あと少し、あと少しでここから逃げられるのに。  真夜中に少し降った雪は積もらずに朝には消えてなくなっていて、濡れた道の端に汚れた氷が転がっている。おそらくこれが最後の雪だろう。約束通りに日野は助手席に水本を乗せ、国道を田舎に向かってひたすらに車を走らせた。カーステレオからは水本の好きな音楽が、一枚だけ買ったCDがループで流れ続ける。水本はずっと目を伏せて、膝の上のモッズコートを握りしめている。 「複数の余罪も追及中だって。スポーツ新聞何紙も買っちゃったよ。受け持ちの男子児童を車中に連れ込みわいせつな行為に及んだ、だって。手口が俺の時と一緒じゃん。まあ、今回のことでああいうことされてたのは俺だけじゃないってわかって……良かったって言い方は変だけど。正直ほっとした。酷いよな。あんな目に遭うのは俺だけで充分だったのに。俺は本当に、みんなが言う通りの嫌な奴なんだって思う」     
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