つめたい星の色は、青

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 全ての不安や劣等感や憂鬱を消してしまうような、水本にかけられた呪いを解く魔法の言葉があればいいと、日野は思う。いつもいつも、この言葉でいいのか水本を安心させられてるのか迷うから、これだという正解が欲しい。  作り物のヤシの木に囲まれたカリブ風のホテルもヨーロッパの城みたいなホテルも、外壁がぼろぼろで豪華さとはほど遠い。その向こうにはまだ雪が残る山と鉄塔が見える。この町を出たら、こういう景色を見ることはなくなるのだろう。 「じゃあこれから海に行こうよ」 「今反対方向に向かって走ってるがね……」 「じゃあ反対側の海に行けばいいだろ。高速料金もガソリン代も全部俺が出すからさ。行こうよ」  水本はそう言いながらカーナビを指先で連打する。 「ちょっと、運転中は操作出来んよ。今から海に行っても日が沈んでるし日帰り出来ないがね。他にどっか行く? もう戻る?」 「……どこにも行かなくていい。どうせどこにも行けないし」  どこにも行きたくない、と水本は少し震えた声で漏らした。 「あんなに馬鹿みたいに毎日勉強してたのに、その必要もなくなって……することもう何もない。先生も死んだし。父親は俺がいなくなったら生きていけないって泣きついてくるけど、離れないわけにはいかないし。これで俺の頭の中を占めてたものが全部なくなるはずなのに、これが望んでた状況なのに、この先どうやって生きてけば良いのか全然わかんない……」     
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