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同級生たちが陰で口にする悪意から耳を塞ぐように、水本はいつもヘッドフォンをして、授業中はいつも居眠りしているか隠れて本を読んでいる。体育の時間もグループ実習も、勿論昼休みも一人で黙々とこなしていた。誰もが水本のことを避けるのが当たり前のように、そういう罰を与えて当然かのように振る舞う。水本のことが気になりだす前は、そんなことにも日野は気付かなかった。だから本当はどんな人なのかを確かめたいのだが、話しかける勇気がないまま、隣の席からその横顔を時々横目で盗み見るばかり。あまりにも彼が自分たちとは違うから、互いの人生が交わることなどないだろう。日野はそう考えていた。
それは二学期の中間テストが終わった頃だった。
「おお、ちょうどよかった。日野、自然科学部に入んねえか」
日野が職員室に日誌を提出しに行くと、担任の西谷から突然そう言われた。
「夏で三年が引退してさ、こいつしか残らねえんだ。来年の春までに五人いないと潰れるから人数合わせで、幽霊部員でもいいから。部活してると内申良くなるぞ」
こいつ、と指差されたのは水本だった。先生の後ろで気怠そうに俯いて、紙の束と大きな本を抱え、生物室の鍵からぶら下がったプラスティック製のプレートを指で弄んでいる。
「部員じゃなくてもさ、文化祭の展示の製作、こいつ一人じゃ大変だから手伝ってやってくんねえか」
「別に一人で出来ますから、余計なこと……」
ため息交じりの小さな声で水本が制しようとするのを、日野は大きな声で遮った。こんな風に答えたことはないと自分で驚くほどに、はっきりと。
「あの、じゃあ、入部します!」
「じゃあ、ってなんだいね。良かったな、水本。一人確保だ。とりあえず部室でも案内してやれ」
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