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会話が途切れないように、と思うのだけど、普段から控えめな日野には上手く繋げられない。それでもこの沈黙は不思議と、緊張や焦りを伴うものではない。むしろ想像通りの潔さに感心している。
クラスの誰かと水本が話しているのを、一度も見たことがなかった。こんな声でこんな喋り方をするなんて初めて知った。祖父母や親や近所の人たちよりもずっとマシだと感じていたので、日野自身はそんなに訛りはないと思っていた。木琴が鳴るような発音でテレビのアナウンサーのように整然と話す水本と比べると、恥ずかしくなるくらい差があって、自分とは全然違う生き物のように思えた。整った声音で真っ直ぐに言いたいことを言う。水本本人にはそんなつもりはないのだろうけど、彼が正しくて自分たちが間違っていると突きつけられているよう。こういうとこが人に避けられてる所以なのだろう。
放課後の誰もいない生物室は薄暗いのに窓の外ばかりが眩しく、校庭の部活と吹奏楽部の音が遠くに聞こえる。うっすらと埃を被った蝶や昆虫の標本、色褪せた周期表、何も飼われてない空の水槽。なんだかここだけ隔離された世界のようだ。
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