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「入るわけないだろう。これだって、小学生が夏休みの自由研究でやる工作みたいなもんだし」
窓際の席には西日が差し込み、水本の睫毛にオレンジがかった光を落とす。瞬きする度に蝶が羽をはばたかせるようにゆっくりと揺れる。睫毛がそんなにあって重くないのだろうか。白い制服のシャツからのぞく血管の浮き出た青白い手首。日に透ける焦茶色の髪。星を作る細い指。あんまり光に当たると、そのまま透けて溶けこんでしまいそうだ。観賞用、と呼ばれる意味がよく分かる。日野が思わずじっと見つめてしまっていると、何? と水本は顔を上げた。急に恥ずかしくなって、顔が熱い。
「あの……水本って結構喋るんだなと思って」
「そりゃあ用があったり話しかけられれば喋るよ。当たり前だろ」
だってみんな水本に話しかけたりしない。日野自身も今、こうして二人きりで話しているのは嘘みたいに思えている。
千枚通しで厚紙を刺すたびに、下敷きに敷かれた発泡スチロールから手応えのない音がぽすぽすと鳴る。日野は身動きが取れず膝の上で手を握り、その音だけをじっと聞いている。
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