つめたい星の色は、青

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 水本が視線を感じて顔を上げると、日野は慌てて目を逸らす。顔を背ければまた眺め、目が合うと俯く。その繰り返し。真っ直ぐに人を刺すような瞳で見られることに、耐えられない。だけど目を離したくない。何もかも見逃したくない。  いつも何聴いてるの、と日野が尋ねると、水本は黙ってヘッドフォンをはずしてこちらへ向ける。耳に当てるとヘッドフォンに残った体温が一瞬だけうつる。五時の下校のチャイムが鳴るまでの数十分、何の言葉も交わさずに向かいの席に座ってただじっと音楽を聴いてた。水本の好きな、日野の知らない音楽。彼の一部が自分の中に入り込んでいく。  蝶の標本を作る人の気持ちが、日野にはなんとなくわかるような気がした。掴んだら壊れてしまう美しいものを、自分だけのものにしてずっと眺めていたいから。薬を注射して、ピンで留める。だけど、水本の美しさを狭い箱の中に閉じ込めておくなんて勿体ないと思う。  水本と一緒にいると日野の胸の奥ではばたばたと、美しい蝶が羽ばたくような感じがする。
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