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弱っているときほど
入社してからはじめて大きな仕事を任されたとき、私は、それはもう張り切っていた。
どれだけ忙しくなっても、がむしゃらに働いた。
そのせいだろう。ある日、私は高熱をだして倒れてしまった。元来あまり風邪をひかない私にとって、こういうことは上京してからは初めてのことであった。
ひとり暮らしの部屋で布団にくるまっていると、途端に心細くなる。きっと子供の頃を思い出したからだ。
息を吹きかけて冷ましてから食べさせてくれたお粥、定期的に取りかえてくれた濡れタオル。嘔吐にも嫌な顔ひとつせず対応し、夜は咳でつらい胸元をさすりながら子守唄を歌ってくれた。
たまらず、実家に電話をかけた。
それは大変ね。明日行くから、それまで待っててね。
母の言葉に、弱りきった私は泣いてしまった。
玄関の呼び鈴の音で目を覚ました。昨晩は泣き疲れて、そのまま眠ってしまったらしい。
ぼんやりと起きあがってみるが、まだ熱は高いようだった。喉に痰がからんで、ゼイゼイと音がする。
カーテンの隙間から見えた空は薄暗い。夜明け前だろうか。
ふたたび、呼び鈴が鳴った。
「お母さんですよ。熱はどう? 開けてちょうだい」
久しぶりに聞く、電話越しではない母の声。
「はーい、いま開けるよ」
私はふらつきながらも玄関へと向かい、鍵を開け、ドアノブに手をかける。
そのとき、なぜかはわからないけれど、今は亡き祖母の言葉が脳裏をよぎった。
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