第1章

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 逆に、作れるかどうかは別として、間違えれば電流などが流れて罰が与えられるやつ。これは論外だ。実験のために頭に鉄の輪をはめられた猿をテレビで見たことがあるが、科学者は、一度自分が仕事に失敗して電流を流されてみればいい。狩りだした動物に罰を与えて実験するなんてもってのほかだ。趣味が悪すぎる。  第一、電流にしても、あるいはボタン式(ボタンを押すと点灯するやつ。)にしても、作るのが面倒だ。子供のときから工作は大の苦手だったし、それに、あまり大がかりなものを作ると妻に怪しまれる。それでなくても、妻はこのごろ何かというと、真顔で、どうしたん?大丈夫?と僕をボケ老人扱いするのだから。  さて、今度は、無地のケント紙を文庫本の半分くらいの長方形に切る。もちろん、その上に二つの円が入る大きさだ。切り終わって、黄と黒の円を等間隔に糊で貼り付ける。これで出来上がりだ。これを実験道具というにはおこがましすぎる。  糊を乾かし、一旦出来上がった実験道具を引き出しに仕舞った。  後でも説明するが、ミウは、僕が書斎に入ると、後から必ず(?)やってくる。いつも僕が書斎に入るのを待っているようなのだ。書斎は彼女にとってはお気に入りの場所だ。彼女にすれば、ここは僕と彼女の二人だけの部屋らしい。他人は立ち入り禁止。この家では他人とは妻のことだが、ミウがいるときに妻が何か用事で書斎に入ってこようとすると、彼女はドスの利いた声でニャッ!と強く鳴く。入ってくるな!という意味なのだ。  プールでひと泳ぎして帰ってくる。妻はパートに出て昼間はいない。週に4日ほど、昼間の6時間、病院の配膳のパートをしている。帰りが早い番と遅い番があるらしいが、説明されても覚えられないし、覚えようとも思わない。  インスタントの焼きそばを作って食べ、テレビの前で少し寝転ぶ。スイミングの後は寝るのが身体にいいらしい。  ミウが枕元にやってきた。撫でてやると、僕の手の位置に体に横たえる。退職した64歳の男に与えられた至福の時間だ。  小一時間ほど体を休めて、ふと思い立って起き上がり、書斎へ行く。ミウも、ゆっくりついてくる。犬のようにこれ見よがしにしっぽを振ってわざとらしくついてくることはけっしてない。あら、偶然行く場所が同じだったわねという感じでついてくる。猫はプライドが高いのだ。  机につき、 「おいで!」
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