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都合の良い人間であれば、必要とされるのだ。 俺はずっと誰かの一番大切な人になりたいと夢見ていたけれど、そんなのは難しい話だった。 だったらもう、全部でなくても良い。 欠片で良い。 俺がいる意味さえあれば、それで良い。 谷岡に呼び出されるのは久し振りだった。 彼の仕事が休みの土曜、指定されたホテルに足を運ぶ俺を自分の半身が嗤っている。 「こんばんは、谷岡さん」 「こんばんは。補導されなかった?」 「馬鹿じゃないの」 ベッドに腰掛ける男に近付き、荒れた口唇にキスを落とした。 彼は含むように笑い、俺の顎を取る。 舌が熱い。息の仕方を忘れたように喘ぐと、谷岡はくすくすと笑った。 今日の彼はなんだか楽しそうだ。いつもはもっと落ち着いた雰囲気なのに。 何か良い事でもあったのだろうか。 「シャワー浴びる?」 「浴びた方が良い?」 「どっちでも良いよ」 「じゃあこのままで」 メールでは詳しい事は話してくれなかった。 いや、“では”じゃない。 俺に何か大事な話をしてくれる奴なんているのだろうか。 初めて好きになった奴は、俺の片思いで終わった。 告白なんて出来なかった。女が好きだと解っていたからだ。 ノンケに恋をしても意味は無いのかも知れないと思い、次に好きになれたのはそういう場所で出会った男だった。 上手くいくだろうかと考えながら過ごす日々。1年付き合ったが、彼はポッと出の女性と結婚してしまった。 結婚するんだと言われた。 お前も本気じゃなかっただろうと。 愛想が無かったもんな、と言われた。 そう、だったのだろうか。別れに怯えていたから、深入りしないように態度に出てしまったのだろうか。 彼の、眉間にシワの寄る笑い方が好きだったのに。 もっと、好きだと伝えていれば良かった。 愛されるとはなんだろうか。 そんなのは解らない。 俺は誰かの一番になりたかった。 でもそれを探すのは、もう怖くなってしまった。 だったらもう、割り切ってしまえと思ったのだ。 人肌は恋しい。 けれど傷付きたくは無い。 そう思うのに、呼ばれると嬉しい。 特にこの男からは。 なぜだろう。無理な事をしないからだろうか。 一晩だけでも、大切に扱ってくれるからだろうか。
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