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「君は気付かなかったかも知れないけど、時々街中で君を見掛けたよ。無意識なのか、すれ違うカップルを目で追う事が多かったね」
「知らない」
「そうか。あとは、立ち止まって遠くを見ていた。オレはそういう時、よくメールを送ったよ。会いたいって。君が嬉しそうな顔をするのを遠くから見てた」
そうだ、俺が理由も解らず寂しいと思った時、連絡をくれるのはいつも彼だった。
見ていたのか。
話し掛けてくれれば良いのに。
「時々君は痣だらけであらわれて、理由を訊くと転んだ、ぶつけたって笑うから何も言えなくなった。赤い顔をしてふらふらで来た事もあったね。オレの嫌いな香水の匂いをさせてた事もあった」
「……うん」
「そういう日は、とてもとても腹が立って、でもオレが腹を立てる理由は無くて、いつも以上に丁寧に抱いていた」
段々恥ずかしくなってきた。
俺は何を言われているのだろう。
「時雨くんは何に怯えているの」
「何……なんだろう。終わりに。終わりが怖い」
谷岡が困ったように笑った。
笑って、俺の髪を撫でた。
「そうか。そうなんだね。じゃあ、終わらない努力をしよう」
それってなんだろう。
具体的に言われなくちゃ解らない。
「もし、オレが君以外に目移りしたら、ひっぱたけば良いよ。何してるんだって、喚けばオレは君に向き直るだろうよ」
「みっともない」
「それが良い。みっともないくらい取り乱して、オレを好きだと言って欲しい」
「谷岡さん」
「なに?」
「デートしよう」
ほろりと涙がこぼれた。
「うん」
「どこが良いかな」
「どこでも。ただ二人で歩くだけだって良いんだ。いつもここだから、陽の光の下の君と一緒に居たい」
「谷岡さん、いつもそんな事考えてたの?」
「うん、考えてた」
「ロマンチストだね」
「夢見た事が現実になるなんて、素晴らしいじゃない」
「……うん」
谷岡が指先で、俺の涙を拭った。
触れるだけのキスを口唇に落として、「好きだよ」と呟いた。
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