最悪な出会い

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「そんなところに立ってると危ないよ」  彼との出逢いは、最悪だった。 「……誰?」  私は顔だけで振り返って、問いかける。 「まずはさ、下りてから話さない? 落ちたら大変だからさ」 「なんであなたに止められないといけないの?」  そもそも、誰? とまた同じ質問を繰り返す。 「僕はね、ここのOBなんだ」 「へえー、だから?」 「名前は晃(あきら)、君は?」 「答える必要ある?」 「教えたんだからさ、教えてくれてもいいだろ?」 「……茅紘(ちひろ)」 「そこは律儀に答えてくれるんだ」  そう言って、晃はこちらに歩を進めてくる。 「ちょっと、なんでこっちにくるの」 「いや、もう少し近くで話をしようかと思って」 「話すことなんて何もないんだけど」 「そう? 僕は君のこと知りたいんだけど」 「……なんで」  彼がゆっくりと近付いてくる。  今すぐにでも逃げ出したいのに、いなくなりたいのに……足が動かない。 「なんでって、そりゃ……」  彼の次の言葉が気になったのかもしれない。晃とまだ話したいと思ったのかもしれない。  何かをしたい、と――期待を持ったのは、久々だったからかもしれない。 「君に一目惚れしたから」 「は? ……っ!」  驚きと呆れが混じった声を上げた次の瞬間、私のファーストキスは晃に奪われた。何の雰囲気もなく、いいムードもなく、いとも簡単に。  彼は私の腕を引いて、前かがみになった私の頭を掴まれた、と思った時には彼の唇と重なっていた。 「ん……」  苦しくなって、息が微かに漏れると、私は倒れ込む。  学校の屋上にある柵の上に立っていて、そこから落ちたから痛いはずなのに、痛みを感じなかった。
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