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『どうするんだ? 葉月。お前、この成績じゃ、どの大学にも行けないぞ? 就職だって難しいんじゃないか?』
進路相談という名の、先生からの一方的な感想タイム。
私は成績表に視線を落として、唇を噛み締めた。
『親御さんに連絡しておいたから、進路をどうするかよーく考えた方がいいぞ』
『茅紘! あなた進路をどうするの!?』
『こんな成績で、進学も就職も出来ると思ってるのか!?』
母さんも父さんも、私が学校でどんな目に遭っているのか知らない。私が言わないってのもあるけど、私に干渉しようとしない。
『えー、ねーちゃんそんなに頭悪いの?』
『和樹(かずき)ちゃんとは全然、違うわね~』
『どうして和樹は頭がいいのに、茅紘はこうなったのか……』
『俺、ねーちゃんみたいにならないように、勉強がんばるね!』
出来のいい弟と、出来の悪い姉。
親が可愛がるのは、いつも弟だ。何をしても悪いのは、私。全ての責任を姉の私に押しつける。
和樹を持ち上げる言葉も、両親の声も訊きたくない。
静かに部屋に戻って、机の上にあるカッターを手に取る。ゆっくりと刃を出していき、鈍い光を放つ銀色の刃に私の顔が映る。
しばらく見つめて、浅い呼吸を繰り返した。唇を噛み締めて、静かに喉元に切っ先を近付ける。次の瞬間、スマホのバイブが鳴り響き、私はカッターを床に落とした。
「今、近くまできてるんだ」
たったそれだけの言葉なのに、心が軽くなる。
★☆
「じゃあ、家を出ればいいんじゃない?」
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