プロローグ

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  「ミルディス、今は沸子ちゃんに何を言ってもダメだよ。火に油を注ぐだけだと思うよ?」  彼は北野(きたの)英人(ひでと)くん。このシェアハウスに同居しているひとりで、ミルちゃんとは唯一無二の親友同士でもある。年齢は私より一歳年下だ。  最大の特徴は彼が『男の娘』だということ。しかもグラビアアイドル並みに可愛い。  サラサラの短髪と人懐っこそうな丸い瞳。体つきは華奢で、肌は透き通るように綺麗。さらに最近は仕草にまで色気が漂うようになってきているから、肉体的な特徴を確認しない限り男子だと見破れる人はいないだろう。  ちなみにその可愛らしい容姿を活かし、小学生時代は子役として活躍していたとか。その後、色々あって芸能界を引退したのち、何かのイベントでミルちゃんと知り合ったらしい。 「沸子ちゃんも少し冷静になろうよ、ねっ?」 「うううううう……」  確かに北野くんの言う通り、私は興奮しすぎているのかもしれない。長湯に入ってのぼせたみたいに顔が熱くて、少し目眩もするから。  きっと血圧が五百くらいにまで上昇しているんだろうな。もし血管に針を刺したら、水芸みたいにピューッて勢いよく吹き出てきそう。  その様子をネット動画で配信すれば、視聴回数一億回突破も夢じゃない。そうなれば広告収入だってガッポガポのウッハウハだ。  だからこそ、憎らしいミルちゃんの前で披露して楽しませるのは本意じゃない。ますます私を怒らせようとするに違いないもん。  私はその事態を避けるため、心を落ち着かせることにした。こういう時に最適なのは、全文を完璧に暗記している六法全書の暗唱。あれってなんだか無心になれるんだよね。  ――そうだ、六法全書でいいことを思いついた。  その暗記の勉強の時に使った本でミルちゃんの頭を殴ればいいんだ。それなら心がスッキリして、ストレスも解消。冷静さを取り戻すことも出来る。  
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