2人が本棚に入れています
本棚に追加
早速、私はその計画を実行に移そうと本棚へ視線を向けた。でもどこを見てもそこに保管してあるはずの六法全書が見当たらない。
おかしい……。あんなに分厚い本を見落とすなんてありえないし、私の記憶違いということもないはずだ。
もちろん、勝手に家出をしたとも考えにくい。だって何不自由ない暮らしをさせていた上、シェアハウスの誰かとケンカしたって話も聞かないんだから。
だとすれば、誰かが移動させた可能性が高い。そしてそんなことをしそうなのはただひとり――。
「ミルちゃん! 私の六法全書――いえ、アンタを地獄へ誘う鈍器をどこに隠したのっ?」
「わぉ……びっくり鈍器ぃ……」
「――せいっ!」
私はアメリカ空軍所属のG少佐に習った後方宙返り蹴りで、ミルちゃんのアゴをクリティカルヒットした。続けて、顔面に隈取りが描かれた謎の力士・H氏直伝の千手観音的な連続の張り手によるコンボを食らわせる。
でもそれはつまらないダジャレを挟んだミルちゃんが悪い。自業自得ってヤツだ。私は真面目に訊いているっていうのに。
こうして虫の息となったミルちゃんの胸ぐらを掴み、その体を思い切り持ち上げた。彼の手足はダラリと垂れ、半笑いのまま頬がピクピクと動いている。
「ど・こ・に・か・く・し・た? 言・えっ!」
「ブ……ブックオファーに……う……売りまひた……」
「売っただとぉっ!?」
「そ、そのカネれ……メ、メイロ喫茶へ行っへ……ていひょくを……食べまひた……」
「何を食べたの? 正直に言いなさいっ!」
「期間げんれいメニューの……くさや定食を……」
「くさや定食っ!? ……うぅむ、それならやむを得ないか。くさやが名産品である伊豆諸島は、東京都に所属する自治体。都民である私としては、応援してあげたいし」
六法全書を勝手に売ったことは許せない。でもそれで手に入れたおカネの使い道が地域振興に繋がることなら、矛を収めざるを得ない。私は仕方なく六法全書による殴打を諦めることにする。
ただ、それで浮気の罪を許したわけじゃない。そして罪には罰を与えねばならない。
最初のコメントを投稿しよう!