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自分の居場所に踏み込んできたのは煙草を吸いながらピストルを仕舞う男。この男が先程の声の主を倒したのだろう。
男は背中に見たことのないマークの入ったブルゾンを着ており、胸元には彼の名を表すであろう漢字が書かれているが、少女は読むことができない。
男は川を見て「汚ねー川だな。」と呟く。
自分に向けられた視線を感じた男は、バッと振り返り、仕舞ったばかりのピストルを手にしようとするが、その正体が小柄な少女と気付きピストルにかけた手を放す。細くて白い少女がこちらをじっと見ている。
男から見て10歳くらいのその少女は、汚れが目立った白いワンピースを着て、育ち盛りの年齢にも関わらず、ここでは栄養が十分にとれず太陽の光も浴びずにずっとここに独りでいるのだろうと思った。
口に咥えていた煙草の火を消し、少女の隣に腰を下ろす。少女は、少し身構える素振りを見せるが、この男には危害を加えられないだろうと悟り受け入れる。
「お前、名前は?」『…………………』「……そうか。」
何も話さず、ただ同じ時間を過ごす二人。
(親……は、恐らくいないな、こりゃ。こんな格好でこんな血生臭いところで、独りで生きてこられたのが奇跡だ。)
男がそんなことを考えていると、
「安藤ーーーー!どこだーーーー!!」何処からか聞こえる呼び声に反応し、立ち上がる。
少女は『ぁ…………』と何かを言いたそうに立ち上がり、後をついていこうとするが、大きな手で制された。
「来ない方がいい。お前がついてくるにはあまりに……」
できれば早くここから連れ出して、少女にもっと明るい世界を見せてやりたい、自分の存在価値を気づかせてやりたい、そう思ったが、この戦いのなか、それは難しいことだ。いくら危険な町とはいえ、ここが少女の生まれ育った故郷であることに変わりはなく、引き離すのも酷なことだと、男は言えずに目を伏せた。
少女は頷き、まっすぐ彼を見上げる。男が言わずとしていることがわかっているからだ。
男は、少女は自分が思っているより強い心を持っているとわかり、微笑む。
自分が着ていたそれを少女の肩に掛け、静かに彼女の頭を撫でた後、「じゃあな。」と男は去る。
『………………あんどう……』
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