【6】終章

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『一人は、寂しい……』 「佐加江!」  テープを破き、洞窟へ入って来た青藍に佐加江は首を横へ振った。そして「大丈夫だ」と視線を交わし、微笑む。 「僕もずっと一人だった。友達の真似をして、おじさんのこと『お父さん』って呼びたかったんだ」  腰に絡みついていた手が、蟻が巣食ったようにサラサラと崩れはじめていた。天気が悪い時は今だに疼く首の傷をグッとしめられ、本気で連れて行こうとしているようだった。 「おじさんに育てて、もらって。感謝してる、大好きだった」  そろそろ限界だろうと、青藍が佐加江の手首を掴み唇を動かすと首を締める手が一層、強くなる。 「……ッ」  うなじにきつく噛み付かれた。締め上げる手が一気に緩み、佐加江は咳き込みながら地面に倒れこむ。そして、オメガの骨が掘り起こされた手前から二番目の穴へ黒い影が入って行った。  普段、墨色の紋が燃えるように赤い。 「私の紋は、怨霊にも効果があるのですね」  佐加江の視線の先には髑髏(されこうべ)が、こちらを向いて鬼笛を咥えていた。 「見つけた」  四つん這いのままそこへ寄り、あごの骨に手を添えて鬼笛を取り出すと、歯列の跡がくっきりと残っていた。 「佐加江、外へ出ましょう」 「青藍、何を持っているの?」  煤けた玉を手にしていた青藍が両手で磨きあげるようにそっと撫でると、それはやがて青白く鈍色の光を放っていた。 「あの男の御霊(みたま)です」 「おじさんの……」 「元はこんなに綺麗なのに、いろんなものに憑かれて汚れていました」  青藍に渡された御霊を両手で包み込むと温かく、とても懐かしい感じがした。 「――鬼様、ありがとうございます。地に縛られ、どうにも動かせなかった御霊でございました」  外で待っていた死神が、頭陀袋(ずたぶくろ)を広げて待っていた。佐加江は越乃の御霊をもう一度両手で優しく包み込み、死神の頭陀袋へそっと入れた。 「佐加江、あれはあの男ではありませんよ」 「え?」 「あの男の御霊ですが、喋らせていたのは鬼治にある様々な悪い念です。鬼笛を見つけたのも吹かせていたのも、そいつらでしょう。この土地は袋小路になっていて、悪い念がよく溜まる」 「人の怨念、怨霊というものが、一番厄介でございます。あの世にも連れて行けず、そこら辺を淀んだ空気のようにずっと漂っていて」 「この御霊は、蘇芳様の元へ?」  佐加江は、頭陀袋の上から御霊を名残惜し気に撫でていた。 「そうですね。人が思うほど、地獄は悪いところではありません。人は生きているだけで業を背負っているようなものですから」 「そっか」 「あちらに帰ったら、蘇芳のところへ遊びに連れて行ってあげますよ」 「鬼様、お子ができたのですか?!!」 「まだです!まだ、帰りません!死神殿は、早く仕事へ戻りなさい。どこまでついてくる気ですか!」  廃村の国有地に無断で入ったこともあり、名乗れずに隣村の公衆電話から目の前の派出所へ電話をした。佐加江が洞窟内に骨があった事を伝えるとパトカーが出動する大きな騒ぎとなっていた。
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