第1章 母

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ーここ最近、気分が晴れない。 「ごめん、美波。ケチャップかけ過ぎちゃった」 母が向かいの椅子に座り、私のオムライスにケチャップをかけて、へらっと言った。ちょっと抜けてるお母さんらしい台詞だ。 「大丈夫だよ。いつも結構かける派だし」 「え!?塩分とりすぎは体に良くないのよ?気を付けた方がいいよ」母が心配そうに言った。どの顔で言っているのかと心の中でクスッと笑いつつも「はいはい」と気の抜けた返事をした。 そんな少しふざけた会話をしているうちに夕飯も食べ終わり、母と洗い物をこなす。 「高校はどう?慣れた?」 「うん、友達も出来てイイ感じ」 「そっかぁ…。パパと出会ったときのことを思い出すなぁ。あの頃から渋くてね?ちょっと近づき難いオーラがあって…」 「はぁ…その話、何回目だと思う?」 「んー、わかんない」と母はいつものように照れた顔で言った。そんな表情が私の胸にチクリと刺さる。 「それはそうと、ここ数日何か難しい顔してる時あるけど悩みでもあるの?」 母は普段抜けているが、こういうことには目ざとい。私はギクッとして固まるが、落ち着くよう静かに息を吐いて言う。 「う、ううん。な、何もないよ」 「そう?何かあったら言いなね」 何とか誤魔化し、私たちは洗い物を終えて、テレビの前に座った。 悩みがないわけではない。ましてや、父の母への気持ちが気になるなど言えるわけがない。
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