第1章 母

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それほど大したことではないと思うのだが、父が母をどう思ってるのか気になるのだ。夫婦間で会話が弾んでいるのも見たことがないし、それだけならともかく、父は非常に無愛想で感情の起伏があまりない。自分が応援してる野球チームが優勝しても一言も発さないし、ガッツポーズなど尚のことだ。強いて言えば、目を瞑り無言で頷く、それだけ。なんだそれ!と何度心の中で叫んだことか。 ふと、テレビの前に飾ってある大量の家族写真が目に入る。 「お母さんって写真好きなの?」 「写真も好きだけど、いつでも二人の顔が見られたらいいなって」 母は夫婦二人の写真を指差して言う。 「若い頃のお父さんもカッコいいでしょう?」 先程からこの溺愛ぶり、嫌な気は全くしないのだが、子として複雑である。感情丸出しの母と無愛想な父、あまりにも正反対で似ているところは一つもないように思う。気持ちの行き違いがないのか不安になるのも自然だ。 いつものことだから無視をしてテレビを見ていると 「明日からお父さんのところ、だよね?」 「…うん」 「うんうん、楽しんできてね」 母がそんなことを言うのにも理由がある。そして、私が不安な原因は一つではないこととの関係もあることだ。
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